夕方、 雲行きを気にしながら仕事場を出た。
最初の角を曲がると、案の定ポツポツと雨が落ちてきた。
薄暮とはいえ、頭髪のおかげで見るよりも先にそれと気がついてしまうのだ。
地下鉄の駅まで、急ぎ足で約10分ほどである。
街灯のほか灯りのない裏通り、 雨足は見えないが、眼鏡の濡れ方からして、思いのほか降
っているようだ。
そして歩きながら、ふとあの懐かしい「におい」に満ちているのに気がついていた。
それは、乾いた土に降りかかる雨粒が、土の分子を空気中に放散する独特の匂いだ。
「ホコリ」のような匂いで、表現は適切ではないと思うが、「ホヤの味の匂い」、掃除機のゴミ
袋を口に当てて深呼吸した(ことはありませんが・・・)ような感じで、カラカラに乾いた土に雨
が降り始めたほんの短い間だけしか、この匂いはしないのである。
ある 学者がこの匂いを大まじめに分析して云々と言うのを何かの本で読んだことがあった。
この匂いから子供の頃のにわか雨を思い出したのである。
先日、吾が息子が学校のつり仲間と、近くの公園に出かけて、その様子をビデオに撮って
帰ってきた。
仲間たちが釣り糸をたれる姿や 、バケツの中の釣果をビデオカメラでレポートしながら、時折
笑い声が入って、いかにも楽しげである。
そこに突然の雨、黒く静かな水面にはっきりとちいさな波紋が広がり、重なりあって、見る間
に白っぽく変わっていく。
そして、次の瞬間カメラは明るく広がった空へ向けられて行った。
大きな樹の梢から、大きな虹の弧に沿って、ゆっくりと撮っていく
「きれいです」 「きれいです」 としゃべりながら 。
毎日、暗くなるまで家には帰ってこない吾が末子ではあるが、 やはり、外で色々と経験をし
ているなと、少しばかり安心して観たビデオであった。
そう言えば近頃、以前より虹を観る回数が増えたように思うが、本当のところは どうなんだ
ろう。
諺に「朝の虹は女の腕まくり」と言うのがあったと思うが、・・・よし今日はこれから晴れるな、
今のうちに、<たらい>に水をはって洗濯をしよう・・・と言うのである。
天気とは無関係に日常が 進んでいく現代ではあるが、「・・エコ・・」「・・エコ・・」と云うコピー
が大流行の今、一人一人がもう少し自分の生活を見直す事が大事なのではないだろうか。
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